「がん」という病気が気になって読んだ本

4/30/2019

「がん」という病気が気になって読んだ本

社会福祉士 北村弘之

私の周りで、この数年間にがんに罹った親族や知人等が亡くなりました。

80歳後半で食道がんとなった叔母(91歳で死去)、乳がんに罹った従弟の娘さん(30歳で死去)、仕事仲間であった女性のがん(55歳死亡)、そして75歳で私が後見を担当している男性の前立腺がん(初期)と、相次いでがんという病気に襲われています。

がん検診技術が向上したことにも影響があるとおもいますが、現在では年間100万人にも及ぶ人が罹患している病気です。そして治療方法も格段に進歩していると聞いております。次の治療ステージは、「がんゲノム医療」ということで、これまでの症状別薬物治療ではなく、個人ごとの遺伝子を用いた治療方法ということです。ただ、この治療方法の実現には相当の時間がかかりそうです。

実は、私の父親も直腸がんでした。手術後は大腸の癒着が見られて大変だったようですが、ストーマを装着して15年ほど私たち家族と一緒に生活できたことは、我々家族にはよいものでした。

さて、私が後見受任しています75歳の方の前立腺がん診察等(2018年夏)にあたって、私は本人と大学病院に同行しました。医師とは症状や今後の検査方法、そして検査後の治療について説明を受けましたが、どうしても納得がいかなかったことがありました。それは、初期のがんであること、その上高齢で認知症の人だったからです。この人に「ホルモン療法」を実施するというのです。医師は言うのです。「発見したからには何らかの処置をしなければならない」と。生体検査まではしかたがないでしょうが、ホルモン療法によって、身体は太り、認知の程度が上がったように思えます。実際毎日面倒を見てくれている認知症のグループホームの職員もそのように見ています。一般的に前立腺がんは、初期の段階(12本の生検で1本に反応があった)では、そのまま治療しなくとも変化は少なく腫瘍マーカーで変化を見ていくようです。しかし、今回の治療は将来何が起こるかわからない予防線のためか、または高額な医療費請求のためかわかりませんが、医師でなくとも誰しも心配であれば「予防線」を張ることは十分考えられると思われます。

もちろん後見人として医療の継続・中止について、結論は出せませんので、結局は医師に任せる状態になっています。

そんなこともあり、「がん」について本を読み始めました。知り合いから紹介された医師『近藤誠』氏の本は、「がん治療」にとどまらず現在の病院経営・医薬品業界を痛烈に批評したものに思えました。その後次々と本を読み始めました。

・「最高の死に方と最悪の死に方」 —著:近藤誠

・「大往生したけりゃ医療とかかわるな」 —-著:中村仁

・「がん治療に放置された人、放置して生きのびた人」—著:近藤誠

・がんと向き合って生きていく—-著:佐々木常雄

・<いのち>とがん—–著:坂井律子

・書かずに死ねるか—-著:野上祐

・「やってはいけない健康診断」—-著:近藤誠、和田秀樹

・「医者の本音」—著:中山祐次郎

・「自分が高齢になること」—著:和田秀樹

「がん」という病気について書物で読んだ限りですが、国のがん対策基本法(2007年施行 その後改正)に基づいて、がん医療の病院間ネットワーク化、専門病院化(がん拠点病院)、そしてがん支援相談窓口の整備がされてきたことを知りました。しかし、罹患した本人の身体的、精神的な不安、そして将来の経済的な不安が大きくなることへの対応は、充分とは言えない状態にあることも分かりました。本人を取り巻く「家族」等への相談窓口の充実が必要と考えます。すでに、多くの方がこれらに対応していると思われますが、私も社会福祉士の一員として、「生活困難者」の相談支援と同様、患者から見た「がん支援」に取り組んでいく必要があるように思えました。

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各著書を読んで、実体験のない私が記憶に留めたいことは

・がん治療には「標準治療」が確立されていますが、選択肢は多岐にわたっているので、医師から十分な説明をもらうこと。

・医師(病院)によって治療方法は異なると考えるべき。慌てず、周囲の力を借り、セカンドオピニオンもよし。

・治療の選択肢、治療後の副作用について充分な理解を医療側から得て、自分なりに結論を出すこと。自分の人生は自分で決める。

・もし治療を行うにあたっても治療経験豊富な病院で行う(HPや医療相談室で確認する)。但し、「国立がんセンター」のように専門病院であっても、合併症を併発した際にはどうにもならず、転院となることがあることを認識すること。

・抗がん剤は猛毒であり、抗がん剤治療後に打ち勝つ精神力と体力が必要であること。

・転移が見られる場合は、抗がん剤治療となる。但し、副作用が大きいこともあり、医療側とよく相談する必要がある。周囲の考えを得て自分なりに「考える時間」が大切であること。

・抗がん剤、手術の後遺症や合併症についても、医師から情報を得ること。後遺症や合併症によって、予後に起こる副作用と、何もしない場合のことリスクを比較することも大切であること。

・がんは5~20年にかけて大きくなっており、発見されたとしても慌てない。しっかりと自分の今後の人生を見つめることが大切であること。

・がんは、「老化」によるものが原因のようです。つまり歳をとることにより、遺伝子の異常は必ず起こるものなので、高齢社会では必然なものと認識すること。

・医師の言う、がんに「効く」ということは、「がんが小さくなる」ということであって、「治る」ではないこと。

・本来の医療は、本来患者のもっている治癒力を助けることにあること。

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さて、ここからは印象のある本の紹介です

◇「最高の死に方と最悪の死に方」 —著:近藤誠

この著は、高齢になった際、無治療の方が長生きできるであろう人には「放置」を治療法の選択肢の一つとして提示したものである。近藤誠氏は、放射線治療医師と長年「がん患者」を診られており、現在の「抗がん剤」治療方法に大きな疑問を呈して活動している医師です。都内ではセカンドオピニオン「近藤誠クリニック」を開設し相談に乗っています。また、1996年「患者よがんと闘うな」を発行後、同類の著書を数多く発刊し、社会的な影響も多い医師の一人です。

一言で言えば、「がん検査はしなくてもよし、がんに罹っても抗がん剤治療をすると副作用は大変なので止めたほうがよい」です。

本を読んでいても、医師らしく説得力があり、日本独特の「人間ドック」の項目では、本当に人間ドックをしない方がよいのではなかろうかと思わせます。また血圧は年齢とともに上がるのは年を取れば当たり前。一律に血圧の範囲を超えたから薬を飲むのはおかしいとの指摘もあります。 私自身の病状に併せて考えてみると鋭い説得力があることに驚きを感じます。また、現在の医学の常識、医学者そして医薬品業界に対して宣戦しているように感ずる医師です。このような医師の存在があることで、人間の医療社会の真の発展はないのではないかと思われます。

◇「大往生したけりゃ医療とかかわるな」 —-著:中村仁一

著者は、外科医から老人ホームへの医療に関わった医師です。その経験をもとに、「死」というものを自然の循環と受け止めることが大切ではなかろうかと著しています。医療に過信せず、もっと自分の意思で生活(自立感)したほうがよいと言っているようです。

生まれてくるのも自然な恵みであり、死に行くのも自然な姿であることを言いたいと受け止めたい。

また、日本人は医師や医療に対して、「依存」しすぎていると記している。医師は絶対であり、全てがわかっている。そんなことはない。また、薬に頼りすぎている。本来人間が持っている治癒力を活かした病気対応方法があると。

さらに第三章では、医師として「がん治療と生活」について記されているのが印象深い。

2012年以来、再販を繰り返す本であり、一般人にとって読みやすく高齢期の医療についてのアドバイスは価値があるように思えました。

 ◇がんと向き合って生きていく—-著:佐々木常雄

この本は、がん治療をしてきた患者の実体験に併せて医学的な経過を事例紹介と説明している本です。

非常に懇切丁寧な説明に「最近のがん」に対する治療方法の変化に患者の不安が少なくなるような表現が多いと感じたのは私だけでしょうか?  がんに関する他書に見られる「抗がん剤」の重い副作用の状況の著書に中からは様子が見えないのは、患者視点よりも医師の視点でがん治療を見ていると感じました。医師ですので当然かもしれませんが。もう少し抗がん剤の副作用について言及している部分があったらと感じたものです。いい意味では、がん患者に「いろんな治療方法がありますから安心して治療に臨んでください」というメッセージが盛り込まれていると感じました。やさしい切り口での著書ですので、現在のがん治療を知る上では読みやすい著書です。

なお、佐々木医師は約50年間がん治療に携わり、駒込病院では日本初の「がん化学療法科」を開設しました。いわゆる、手術、放射線治療をできない患者に抗がん剤治療を行う専門科のパイオニアです。

◇<いのち>とがん—著:坂井律子

著者の坂井律子さんはNHKのデイレクターで、福祉・医療の番組制作に携わっていました。今回の出版は、本人ががんという病に罹り、その発症から闘病生活に至ることを、患者になって考えたことを著したものです。文面からは、自らが病気と闘ってきたこと、そして本人のガンに対しての好奇心がよく表れている著です。この著は医師とは異なり、患者の視点、そして本人の探求心が、一般人の読み手として「がん生活」というものがどのようなものかが非常によく理解できるものとなっています。多分、ご本人が今でも存命であれば、この好奇心、探求心が次なる「医療ドキュメント」として放送番組を提供できたのではないかと思った次第です。

□医師の本音—-著:中山祐次郎

若き医師(大腸がん専門医)が治療にあたる葛藤を記したものです。その中に、「がんを告知されたときにすべき3つの質問」というものがありますのでご紹介しておきます。

・そのがんの治療に慣れているか(1年で何人くらい担当しているか)

・どんな予定で検査や治療を進めるつもりか

・私や家族にできることは何か

この本は、医療業界の暴露本的な部分もありますが、素直に読めるものです。

□その他

多くの「がん」に関する著書が出ています。各部位別(例えば、大腸がん、胃がん・・・)の治療方法や副作用、費用がいくらかかるか、公的な補助(高額療養費)制度、治療中の食事レシピと多様な本があることを知りました。そして、医療界で研究中の「遺伝子治療」の本も情報は満載です。

以上

印刷される方は→ 「がん」という病気が気になって読んだ本

 

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