熊野参詣道 熊野川

2023/6/4

「熊野参詣道 熊野川」 3/3

 北村弘之  

神々が棲まう自然崇拝の聖地「熊野」を訪ねての2泊3日の紀行記。

最終回の今回は「熊野古道 交通手段としての熊野川とJRきのくに線」です。

熊野古道は、平安時代から京の公家などの参拝路として整備されています。その殆どは、陸路それも険しい山道を進むものですが、我々は今回、世界遺産「川の参詣道」の熊野川舟下りで熊野本宮大社から熊野速玉大社を目指しました。宿泊地の川湯温泉をバスで出発し30分、道の駅熊野川で下社。そこはすでに舟下りの出発地でした。山と山に囲まれた広大な道の駅熊野川の川幅は200mもありそうでした。

ライフジャケットを身につけ、そして編み笠をかぶり定員14名の舟に乗りました。現在ではエンジン付きの小舟となっており、船頭の舵さばきで出発進行です。案内役は女性ガイドです。もう一隻の舟のガイドは外人客相手でした。とにかく、熊野大社詣でにいたるところ外人客が多いのです。行先は熊野速玉大社近くの船場です。全長16km約1時間10分の舟旅です。

途中の奇岩の地では流暢なガイドの説明と竹笛による地元の唄の披露があり、舟下りの楽しさを一層引き立ててくれました。御船島付近ではかなりの強風で、私は編み笠を水面に落としてしまいましたが、後続の舟の外人客によって拾われ戻ってきました。そんなハプニングも旅の良い思い出となりました。

この熊野川は昔から暴れ川と言われるだけあって、2011年9月の台風12号の際には多くの人家や道路、橋桁が流されたということで、道の駅熊野川には写真にあるように、水位の最高地点8.27mの柱が立っていました。その後も台風の度に、山崩れなどの被害があるようです。このような中でも、昔の人は熊野の神々と巡り合うために苦行を重ねながら参詣道を歩いたのでしょう。

3日目は自宅へ帰る日です。宿泊地の那智勝浦駅から白浜駅経由南紀白浜空港に向かいます。JR紀勢本線のJR西日本側の愛称「きのくに線」の2両のローカル線を利用しました。単線のため約80kmの区間を2時間かけて太平洋を見ながら、数多くのトンネルを通っていきました。あまりにも多いトンネルだったので、自宅に帰ってからトンネル数を調べたところ、紀勢本線(三重亀山駅と和歌山駅)のトンネル数は大小180とJRグループの中でも、一つの路線としては最大ということでした。また乗車区間は、運転手一人のワンマンカーです。先頭車両の運転席で前方を見ていると、一人でも操作できるようにいろんな機材と表示板が工夫されていました。その中でも驚いたのは表示板の一つに「津波警戒地域」の表示を見ました。海岸べりを走るとその表示が出るのです。東日本大震災の教訓を得て設けられたものだと思われます。本当に運転も進化しています。

きのくに線は、日中のローカル便は1時間に1本ほどの運行のためか、自転車を電車内に乗せることができるように「サイクルトレイン」の運行がありました。我々の乗った車両にも1台ありましたが、乗客はずっと自転車を支えていたのが印象的でした。

こうして、陸と舟の熊野古道の旅は天気に恵まれ無事帰宅できました。