後見制度の課題 1

6/20/2023

社会福祉士 北村弘之

今回は、後見制度の「申し立て側(※1)」から見た課題について記してみます。

(※1 申し立てとは、行政用語で一般的には「申請」という意味です)

【後見申し立ては大変な労力を伴う】

例えば、独居の母親が認知症になり、預金の出し入れができなくなった場合、銀行や市区町村の相談窓口では、母親の息子に「後見制度という制度がありますので、是非利用して下さい」と伝えます。

しかし、後見申し立てを家裁裁判所に行うには大変な労力が必要となります。医師への診断書依頼に始まり、ケアマネジャーによる本人情報シートの記入依頼、親族への同意書(親族が多いほど手間がかかる)、戸籍の取得、そして財産明細(不動産、預貯金等)を明らかにすることなどです。基本的な調査と申し立て文書の作成記載は、息子の担当になります。

ちなみにR3年の家庭裁判所への申立件数のうち、52%は子、親、兄弟姉妹等の親族となっています。 そして、上記手続きを踏まえと申し立て記載迄の準備期間に2~3か月程かかり、最終的に家裁の審判がおりて、後見人が仕事に着手するには、準備から4~6か月を費やすことになります。

このような場合は、市区町村の担当者や弁護士に依頼して申し立て書を記載することも可能です。また費用が負担できない場合は、市区町村の窓口に相談することもできます。また法テラスに相談することもできます。

【家族は常日頃 自分の両親の財産明細や親族関係を把握しておく】

家庭裁判所への申立てに、重要なことは「財産明細」を明確にすることが必要です。この財産明細には、不動産(土地、建物、マンション等)や預貯金、保険等が含まれます。後見の目的の一つには「財産管理」が挙げられ、本人の財産を管理して守ることになっているからです。

高齢の両親を抱える家族は、親はどこの銀行や生命保険会社と取引しているか、通帳等はどこにあるのかを知っておくことは、後見申し立てのみならず、死後事務の相続等に欠かせない事柄の一つです。

また、親に遺言書の存在があるのかを把握することも大切なことです。なかなか話しづらいもので、内容は知ることはできませんが、正月など親と接する場合などに、何気ない会話から情報を得られることがありますので、そのような機会を見つけておくことが大切です。

財産明細を明らかにすることは、いずれやってくる相続の際に必要な大変な手続きになる前の準備段階となります。

【’本人らしい生活’を送れる後見人と出会う】

後見申し立て時に、親族を後見人に指名することはできます。しかし多くは、その本人(被後見人)のことを知らない専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士)が後見人になっています。親族が後見人になれば、本人の性格や生活や行動等は把握でき、本人との意思疎通が容易になる生活環境が構築できるでしょう。しかし、R3年の後見人に親族が就任するのは全体の2割ほどになっています。身寄りが少ない、また多額の財産を持った人への対応等が必要ということで、多くは専門職に依頼しています。そこで起こるのが、後見人と被後見人との相性です。

多くの被後見人は、自分らしい生活(例えば、施設に入らず自宅で過ごしたい等)を望みます。本人の生活歴を分からない専門職にそのような希望にどこまで対応できるでしょうか。

もちろん専門職としての後見人は、法的なこと、財産管理、福祉、医療等のことに充分な知識や折衝能力はありますが、これらを全て理解している専門職は残念ながらいません。専門職にとって、多くの関係機関(施設、ケアマネ、医療、福祉、行政等)と相談して、その時の最善を尽くすことになります。このように、関係機関に声をかけて連携を図ることが出来る人が望ましいのです。

もちろん、後見人との「相性」もあります。相性が合わない場合は、家裁に申し立てて後見人をかえることはできます。