私の後見人等の事例紹介 4

5/20/2023

社会福祉士 北村弘之

Dさん  男性 受任時73歳の事例

アパートの3階で独居生活をしていた72歳男性(介護度3)の事例です。本人は2010年から金銭の困窮で生活保護受給者として生活していました。2015年春には金銭管理や日常生活に支障が出始め、入院したことを機会に病院の相談員と役所が相談した結果、2017年4月に首長申し立てをしました。その後家庭裁判所から保佐類型の審判がおり、私が保佐人としてその職務にあたることになりました。

受任当時、住いの近くにある、「通いの介護サービス」を週に2~3日受けていましたが、通いのない日はもっぱらコンビニ弁当になり、お金を使いすぎると水だけの日もありました。また冷暖房の切換もできず暑い日に暖房の状態もありました。また足腰が弱ってきており階段昇降は大変危険な状況でした。

6月になり本人を交え、ケアマネジャーや役所の関係者と私で今後のことについて相談する機会を持ちました。その結果、本人の了解を得て、認知症のグループホーム(GH)に入所することになりました。

転居の準備のため、部屋の郵便物や書類等を確認していると、消費者ローン3社と金融会社1社からの借り入れが判明しました。私は消費者ローン3社に電話し内容を確認したところ計約150万円の借り入れがあり、金融会社1社とは電話連絡はとれないものの催促の通知郵便がありました。これは、私の仕事の範囲を超えていると判断し、弁護士に相談しました。あとからわかったことですが、金融会社1社は闇金融で有名なところでした。弁護士と相談し、返済不能のため個人破産手続きを、法テラスを通して行うことになりました。(生活保護者のため弁護士費用の負担はありませんでした)

その年の11月、地裁に本人と同行、弁護士の3名が呼び出され裁判官から破産宣告を口頭で言い渡されました。

どうも、金銭に困窮していた理由は、パチンコ依存症だったようです。これは後々の本人との何気ない会話でわかりました。

GH転居前後の7月は、私はアパートの解約手続や修繕費用の支払い、また公共料金と新聞、携帯電話の解約に追われました。もちろん、GHの入所契約書の署名等もありました。

その後、GHでの生活が始まりましたが、自分の思い通りにならないことがあると、声を荒げることがよくあり職員ともめる事態にもなりました。介護する人の多くは女性でしたので、本人が見下していたこともあり、私は週に一回は外出散歩同行しました。私が行けない時は、外部の男性ヘルパーに依頼して気分転換を図ってもらいました。本来、このような事実行為は後見職務ではありませんが、本人の最善と施設内の事情を察して行いました。

入居してからの1年後、検診の結果、大動脈解離と前立腺がんの疑いがあることがわかり、大学病院を継続して受診することになりました。心臓血管外科の医師は診断の結果、腎臓が相当悪化しているので大動脈溜の手術は本人の体調に悪影響するとのことで処置しない、また前立腺ガンは初期のものであったため服薬で治療することになりました。このように、私は本人の身体状態を医師に確認するために同行しました。その後、認知症と前立腺や慢性的な症状のための服薬は12~15種類になっていました。それが原因かわかりませんでしたが、本人の表情に生気は徐々になくなっていました。GHの嘱託医に相談したところ、服薬の種類は減らしたいが、私は内科専門なので他の疾病の服薬には何とも言えないとのことでした。私としては、医学の見地から改善することも大切ですが、薬の影響で本人の生活が悪いほうにいっているのではないかと思い、検討を依頼しましたが実現しませんでした。

その後、尿路感染で一般病院に入院、認知症の症状が激しくなったため精神科病院への入院を繰り返しました。どのようなわけか精神科病院内では行動は安定しているとのことで退院を促されました。しかしGHに戻ると認知症特有の怒りの感情が表出し、ヘルパーにも危害が及ぶ直前の状態になりました。また足腰が弱くなり、GHの家庭浴槽にまたいで入れなくなり、シャワー浴のみになっていました。そこでGHの施設長などと相談し特別養護老人ホーム(特養)の申し込みを行いました。この段階は職務にあたって4年目の2021年4月です。介護度3のレベルは、特養入所の最低ラインでしたが、どこの特養も入所対象には程遠く、申し込み先を複数回替えて待つこと1年半後の2022年11月にようやく特養に入所できました。

しかし、特養に入所して2週間後に急性肺炎と急性胆嚢炎を発症し1か月ほどの入院生活を送ることになりました。現在は退院されています。

2017年当初、保佐類型の審判でしたが、今後の後見活動を見ると一番重い「後見類型」ではないかと精神科医に相談したところ、診断の結果は「後見類型」の審判が家裁からありました。家裁への申し立ては、保佐人の私でしたが、申し立て文書の作成に結構労力がかかりました。

【事例を通して】

  • 医療同意。本人は離婚しており、息子2名とは20年以上音信不通。また兄弟2名とも関わりがほぼなく、連絡はお金に困った時に依頼されたようで困惑されていました。親族には、私の保佐人就任後、就任の挨拶状を出したものの、息子さん2名からは何の返事もありません。当初の申し立て時も同様で返事はありませんでした。2022年秋の後見申し立て時には、兄弟2名に「同意書」を送付したものの、宛先不明で戻ってきました。このような状態の中、後見人は医療同意(延命)をできないため、私は本人がGH入所時に本人同席のもと施設長などと一緒に意向を確認しています。
  • GHでの生活。本人が認知症ということもあり、GHに入所しました。しかし認知症の他に疾病が多い人はGHでの職員の負担が多いこともあり、やはり特養への入所が最善と思われました。GHは家族的で生活の実感を得られることではよいのですが、身体介助をする面では特養の専門性がすぐれているのではないかと思われます。
  • 医師は関係者と交わることが必須。 医師は本人の治療のために尽くしています。しかし、あまりにも専門性(例えば泌尿科のみで他のことは診ない)に特化しており、本人の年齢や身体状況を考慮した総合的な診断を下さないことに不満が募りました。本人の意向は第一番に大切ですが、QOLと治療(服薬)のバランスを考慮することを関係者間で一緒に考えてほしいものです。