私の後見人等の事例紹介 3

4/20/2023

社会福祉士 北村弘之

Cさん  男性 受任時54歳の事例   任意後見の利用

今回の事例紹介は、「任意後見制度」というもので、これまでご紹介してきました「法定後見」と異なり、委任者と受任者間の委任契約となります。

2012年夏。知り合いのケアマネジャーから私に連絡があり、50歳代の男性とその母親(86歳)の後見業務の打診がありました。

男性は、「慢性閉塞性肺疾患(肺気腫で喘息持ち)」 の状態で行動範囲が限られており(階段の昇降は介助が必要)、週に3 日の生活支援(要介護 1)。他にマッサージや鍼灸による治療(週 2 日)、訪問看護(気管支炎のため 2 週に1 回)、医師の往診(月 1回)を在宅にて施されていました。また、本人は感染のため年間に数回 救急で病院に担ぎ込まれており、1 カ月ほどの入院療養を余儀なくされている状態でした。また、母親はCさんと同居されていましたが、介護が必要な状況となり、ショートスティの綱渡り状態でショ-トスティ先より通院している状況でした。(介護度2。車椅子利用)

母親にもしものことがあっても、息子のCさんは何もできないことを案じてのことで、息子様には任意後見契約を、そして母親とは法定後見(成年後見)を行うことになりました。

男性は、判断能力はあるものの行動が制限されているため、「任意後見制度」の利用となりました。

これまでの事例紹介(Aさん、Bさん)は、判断能力が乏しいという人でしたので、法定後見(成年後見)を家庭裁判所に申し立てし審判を受けていました。しかし今回の事例では、そうではなくCさん本人(委託者)と受任者(ここでは私)が当事者間で契約するものです。契約文書は公証人立ち合いのもと、公証役場での手続きとなりました。しかしCさんは移動に負担があり、公証人に自宅に出張して手続きをしました。契約内容は、本人と数回にわたり打ち合わせた結果次の図のようになりました。

契約締結後、本人の病状がすぐれず入退院を繰り返しました。その都度、私は病院との契約や医師に病状を確認したりしていましたが、遂に本人は自宅での生活は無理と判断し、介護付きの有料老人ホームを探すことになりました。本人は少しでも自分の口に合う食事をしたいということで自炊できる施設を何か所か検討したのち入居となりました。しかし本人はまだ50歳代、周りの殆どは80歳以上の高齢認知症の人ということで、徐々に気持ちが塞がっていきました。そして楽しみの食事は高齢者向きのものだったため、口に合わずとうとう怒りだし、宅配COOPで材料を運んでもらい自炊することになりました。しかしそれも体力のなさで立って料理をすることができなくなり断念しました。

更に、喘息発作の激しさと施設職員の気遣いのなさに本人の苛立ちは最高潮に達しました。その度に、メールで私に「何とかしてくれ・・・」とのSOSでした。

有料老人ホームに入居と同時に、私は本人の住まいであった賃貸住宅の解約手続、そして家財等の廃棄手続きを行うことになりました。このように多くの行為は契約以外のものになったため、基本報酬の他に本人に費用明細を説明し、報酬を受領することにしました。

契約開始時は、本人と私には何の関係性もありませんでしたが、定期的に訪問する際には、趣味(鉄道マニア)の話などを通して徐々に信頼関係が出来上がっていき、自分の生い立ちや生活状況を話してくれるようになりました。比較的症状が安定しているときには1時間ほど、また入院時には短時間でもベッドの脇で会話するように努めました。その他の時間での会話はもっぱら電子メールでした。さすが本人の会社員時代の経験が生きたツールとなりました。

2019年1月。何回も入退院を繰り返した入院先の医師とソーシャルワーカー、そして本人と私で今後の病状の進行について2回打ち合わせました。その結果、本人の希望で療養型の病院に転院することになったのですが、それから数か月後に亡くなりました。「死後事務委任契約」に基づき、私は葬儀の手配、親族への連絡を行いました。そして、葬儀後の費用の精算が終わったのち、「遺言書」に基づき相続の手続きを行いました。

【事例を通して】

  • 今回の場合、本人の判断能力は亡くなる直前まであったため、移行型の「任意後見契約」までには至りませんでした。しかし「死後事務委任契約」と「遺言書」、そして「尊厳死宣言」を公正証書にしておいたことで、業務を円滑に進められたことは幸いでした。このような任意後見制度は、身寄りがいない人には現行の社会制度の中では一番よいものです。このような制度(民法)があるものの、普及しておらず現在でも全国で年間1万件ほどの契約に留まっています。
  • 受任者と本人(委任者)との間で意思疎通がうまくいかなくなり、結果的に信頼関係を築くことができない場合もあるようです。任意後見契約締結で大切なことは、委任者の生活スタイルを少しでも理解できる受任者であることが必須のように思えます。私は、任意後見受任の打診を何回かありますが、委任者は自分の財産や生活スタイルをオープンにしない場合があり、このような場合は契約に至っていないのが現状です。また報酬金額も影響されているようです。
  • 法定後見と異なり、任意後見契約は、受任者は委任者が何をしてほしいのかを、時々刻々と変わる状態をみながら対応して、本人らしい生活を実現させることになります。時には、お寺への挨拶に行ってほしいとの願いに同行したり、買い物にも同行しました。法定後見では、このような事実行為は基本ありませんが、お互い同士の委任契約ですので契約に盛り込むこともできます。また、施設ケアマネや医療機関との連携にも力を入れ、本人の不平不満の代行もしました。

【下記図は任意後見契約のひとつ「移行型」を表したものです】