私の後見人等の事例紹介 1

2/20/2023

社会福祉士 北村弘之

今回からは、私が後見人等に就任してからの実例をご紹介します。

Aさん 女性 受任時78歳の事例

  統合失調症の治療のため精神病院に通算52年間入院中に受任(‘15/8月受任)。若くして結婚し男の子3名をもうけたあとに離婚。本人は発語できず、歩くのもやっとという感じで、その後入院先からは転倒したという電話が何回かあり頭にヘッドギアをつけるようになりました。家裁への後見申立人は北関東に住む弟様でした。遠地でしかも申立人も高齢であり妻の介護が必要とのことでした。就任後、私は月に一度の訪問時には主に本人とソーシャルワーカー(MSW)と一緒にお会いしました。お会いしてみると、長期間にわたる社会的入院生活は本人のためにも医療体制にも問題があると考え、受任後半年が過ぎたことろから、医師とソーシャルワーカーと退院の相談をし始めました。医師からは「退院後何かあれば再入院はできますよ」という言葉があり、特別養護老人ホーム(特養)への入所先を検討しました。

 特養の入所申し込みをしたところ、幸いにも「本人と面談したい」という特養があり、入所に結びつきました。この段階で私の受任から1年が経過しておりました。特養では、食事の時以外はベッド上で休んでおり、たまに大声を出したりしていました。しかし入所してから、病院と違う食事内容の変化、そして様々なワーカーによる生活環境の変化等で本人の顔がみるみるうちに変化し、血色がよくなり、声出しはするもののワーカーの間で人気者となりました。その後数回にわたる体調不良による入院はありましたが、人間は生活環境(病院から特養)が変わることで、本人に気持ちや体調によい変化があるものだとつくづく思いました。

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 後見人して、本人の親族と連絡を取り合うことは、今後の後見人活動(療養、死後事務、相続等)上で大切なことです。後見開始直後、母親(本人)の顔を知らないという3男を含め、長男と次男に母親のことを相談したいと思い連絡しました。その結果、長男と次男と直接会うことができました。しかし、「母親はもう亡くなっていると思っていた。今更話があっても困る」との話でした。残念でしたが、死後事務はできない、相続は受けないというものでした。この内容は大切なので、書面で3名から署名返信をいただき、その旨を申立人の弟様に連絡しました。その弟様は’21年に先に亡くなり、甥っ子様が親族の窓口に立ってくれたことは幸いでした。その本人は翌年に85歳で亡くなり、私は予め親族から承諾を得ていた直葬と納骨の手配をしました。直葬の日、北関東から甥っ子さん夫妻がきてくれて3名で火葬に立ち会うことができました。葬儀屋と二人で見送ることがなくてよかったと初めて思いました。

 その後、後見人は息子様3名に「相続財産放棄の申立」を家裁にするように手紙で依頼したのち、後見人は「相続財産管理人の申立」を家裁に行い、申し立て受理後、財産管理人である弁護士にお会いし財産の引き渡しをすることでようやく後見人の仕事は完了しました。

この例にあるように、本人を取り巻く親族には後見人には見えない経緯がありますが、やはり就任当初、親族や関係者と連絡を取り合うことが大切であることを学びました。甥っ子さんが最後に現れたのは信頼関係のたまものだと思います。また入院先の医師やMSW、特養のケアマネやワーカーの思い切った判断が本人の生活環境と命を守ってくれました。 それは関係者の判断力/特養での介護力/特養の食事力が支えになっていると考えています。