グループリビングを訪ねて

2021/11/21

「グループリビングを訪ねて」

—自立と共生を目指す住まい—

社会福祉士 北村弘之  

タイトルにある「グループリビング」という言葉は一般的には聞きなれないと思いますが、自立された高齢者の共同生活の場です。現在、全国に50か所ほどあると推測されますが、支援ネットワークに加盟されている団体は16か所あり、NPO法人が中心となって運営しています。特徴は、何と言っても入居者自らの意思で生活を送ることが出来ることです。そして、同じひとつ屋根の下で「自分らしさ」を失わず、ボランティアの支援を受けながら、一緒に共生できる住まいです。福祉施設でなく自宅の延長で、一人でいる時間を楽しみながら、共同で生活を送る場なのです。

今回、川崎市にある「COCOせせらぎ」というグループリビングを訪問する機会があり、運営に当たっている人、入居者さんと意見交換することができました。

ここは2014年7月に開所し、定員10名で現在は満室ですが、最初のころは半分にも満たない人数のため、運営資金に困り、オーナーへの支払猶予を懇願したりしたそうです。というのも、ここの運営は「補助金」頼みでなく、オーナー(土地と建物所有者)と運営にあたるNPO法人の理事(長)、入居者で問題解決にあたっているからです。   https://coco-hokubukawasaki.jp/

私は10年ほど前、あるNPO法人で「グループリビング」開設のお手伝いをしておりました。その際、全国にある数か所のグループリビングを見学する機会がありました。その時、印象深かったのは、どこも「設立者」の想いが、入居者や運営スタッフの気持ちを動かしているということです。その情熱は半端ではなく、関係者とはとことん話をし、信頼関係を築き上げていることです。今回の訪問先「COCOせせらぎ」の理事長前田由子さんもそうでした。本年88歳の現役で、70歳前後からの想いを実現されてきたのです。まさに人生後半をパワー全開でやってこられたのです。住まいで働く人やボランティアを大切にし、自分ひとりの力ではなく、いろんな人に声をかけ共同の輪を作られてきたことは、ご本人の人生の宿命だったのかも知れません。

以前、社会学者の宮本みちこ教授は次のような話をされていました。

「日本人は、家族の古い息苦しい関係から解放され、自由を謳歌したいと願っているにも関わらず、孤独でいることは寂しく思っている。暖かい関係で囲まれている「サザエさん」の根強い人気の理由はそこにある。また、家族からと会社からの解放を楽しみつつも、孤独というリスク回避のために、今まで自らを縛りつけてきた家族集団、共同体に救いを求めているのでないか」

今回の訪問先で冊子をいただきました。この冊子は入居されている方が綴ったものです。この中に、このような文書がありましたのでご紹介させていただきます。

「退職後、夫が亡くなりひとり暮らしになっても、いつも何かしなければならないことを勝手に見つけては、バカみたいに忙しく過ごしてきました。そんな私に”77歳にはバタバタ追われるような生活は無理だよ“ということを教えてくれるように、身体が軋んできました。急ごうとしても急げない。ぐっすり眠ろうとしても眠れない・・・あと1か月で78歳になろうとしているこの時に、私が気づいたこと、それは「追われるような生活はやめて今日一日をていねいに」 ということでした。

 この一節は、68歳の私の心に響いてきました。                         以上