「老後の資金がありません」

2021/8/15

「老後の資金がありません」

—喜劇舞台—

社会福祉士 北村弘之  

2019年に物議を醸しだした麻生太郎氏の「老後資金2000万円」。50歳代の多くの人は、そんなお金はいまさらどうやって稼げればよいのか。毎月天引きしてされている年金で生活できるはずではなかったのかと大騒ぎになりました。

実は専門家であるファイナンシャルプランナーは、この発言は現状の日本の社会を現わしているということを聞きました。つまり、定年を迎えた時期には、最低限2,000万円の預貯金は必要なのだと。もちろん家族の事情で異なります。この要因の一つに、老後の年金額は頭打ちであること(増えることがない)。また公的な医療・介護保険料の負担はますます増えて、窓口の負担割合も増加しているからです。

私は、社会福祉士として、この10年間に通算17名の「後見人」を受任してきましたが、その多くの人は預貯金50万円前後で生活しています。日本社会の社会保障制度は、生活困窮者に重点をおいており、最後の砦は「生活保護」制度というセーフテイーネットで守られていますので資金面では安心です。(人権の側面では不安はあります・・・)

さて、タイトルにあります劇場喜劇版「老後の資金がありません」を鑑賞してきました。ダブル主演の渡辺えりさんと高畑淳子さんの共演です。舞台は、両名の家庭の悲喜こもごもな生活をコミカルに表現していました。娘の結婚費用300万円負担のことからはじまり、親の葬式費用の負担を兄弟のどちらが負担するか、親の生活費、そして親が認知症になり徘徊している様子、また突然やってきた定年前の夫の会社倒産による退職金なしの姿、老後の年金詐欺を図るなど本当に現実的な話題が次々と出でくるのです。その中で主演者は、人間はどうしても「見栄を張っている」という発言がありました。片方の家族(高畑さん方)は葬儀の際、坊さんを呼ばない選択していることの話を聞くと、もう一方(渡辺さん方)の家族は葬式費用に300万円をかけたのは、「見栄を張っていた」というのを告白するのです。

私もそうですが、人間って他人に対してどうしても強がりを言ったりしますよね。それが、原動力になりプラスに向くこともありましょう。しかし、その反対に「まずかった、あのように言わなければよかった。もっと慎重に考えるべきだった」という想いもあるでしょう。

舞台のエンディングで、主演者は「この先何とかなるでしょう」ということを前向き語っていました。長い人生、気持ちはそうでないと過ごせません。日々一日を楽しく暮らすことが人間によいのではないかと改めて感ずる3.5時間の舞台でした。

この舞台は、東京(~8/26)と大阪(9/1~15)で公演されます。この他10月には同じタイトルで映画の上映があるようです。原作は、ともに2015年に発表されています。               以上