痛くない死に方

2021/4/10

「痛くない死に方」

—ついに映画化—

社会福祉士 北村弘之  

2016年に発刊された医師である長尾和宏氏の著「痛くない死に方」が映画化され、この2月より公開されました。早速見てきました。”このような死に方もあるんだ”と改めて知ることができました。

誰にでもやってくる死。昭和30年代は、まだ我が国は医療の発展途上期であり自宅で命を全うするのが一般的でしたが、周りの人は、死に行く人の姿を通していずれ来るであろう自分ごととしてとらえることができました。そして、「死」を間近くに経験することによって亡くなった人のことを偲びながら語り明かしたものでした。私の祖父母が亡くなった幼児期にはそうでした。

 しかし、高度成長の発展により都会に人が移りはじめ、そして核家族化が進み、いつのまにか我々にとって「死」の場所は医療機関というのが当たり前のようになってきました。

タイトルの原作は(映画と同名)は、尼崎市でクリニックを開設している医師長尾和宏氏の著です。ここでは数名の医師と一緒に診療にあたっており、24時間365日の自宅への訪問看護も行っている医療機関なのです。その中心的な役割である長尾医師は、現代の治療方法は「医療=薬」となっているのではありませんか?という問いかけをしています。彼は医師の役割は、その人の生活を見直すことであり、薬はその補助であるべきだと言っています。

さて映画では、ガン末期の2人を、「痛いおもいをして亡くなる人」と、それなりに医療スタッフや家族とともに緩やかにそして「痛み少なく亡くなっていく人」を映像化しています。前者は、終末期を病院で過ごすよりも自宅で過ごしたいという想いで在宅医療を選んだものの、不慣れと経験の乏しい医師の振舞いの中、家族ともども痛みを続けながら亡くなっていくものでした。後者は、患者本人が自分の終末期を悟り、自宅で過ごしながら、治療中心より、患者の心を意識した医師と家族の力で痛みのない終末期を過ごしている姿なのです。

各場面で、緊迫するシーンがあり、人間はこのように亡くなるのかというのがリアルに伝わってきました。特に下顎呼吸です。医師はこのよう時を「台風上陸」と言っていました。上陸した台風が通過すると我と穏やかな晴天(死)がやってくると比喩していました。

この映画監督である高橋伴明氏は1949年生まれ。映画を通じて「死を考える」よりは「生き方を考える」ことが大切と著に書いています。その監督の終末川柳作品をいくつか紹介します。

・延命の 家族愛とは エゴイズム

・自尊心 紙おむつが 踏み潰す

・救急車 在宅看取り 夢と消す

・尊厳を 遠くの親戚 邪魔をする

・良い数値 出るまで測る 血圧計

この映画に出演された女優の坂井真紀さんの言葉です。「子どもは小さいうちは目が離せないし、四六時手がかかるじゃないですか。死ぬときも手がかかるんだ、ということが自然なことと認識されたら、きっと家族も社会も当たり前にフォローし合えますよね」 この言葉に私と妻の両親の見送った振舞いに反省しています。                                                 以上