おひとり様の老い支度 ⑨ 遺言書と死後事務委任契約

今回のテーマ 「遺言書と死後事務委任契約」 9回目

       発行12/25/2020

社会福祉士 北村弘之

誰にでも、死はやってきます。それに備えることは極めて大切です。一番大事なことは「死」というものを受け入れることです。しかし、人間は元気なうち、自分の最期はまだまだ先だという意識があり考えようとはしません。病気や事故で瀕死の状態にならないと考えないものです。たぶん、そのような状態になったと医療関係者が認めても、命の限界を自ら悟ることは少ないように思えます。

下記は、「高齢者の相談先、契約文書」を状態変遷に合わせてまとめたものです。ここでは、図の中の「契約文書」について記していきます。

9回目 遺言書 1

「見守り契約」と「財産等委任契約」は、判断能力のあるうちに、信頼できる人あるいは弁護士等の専門職に委任するものです。委任内容は、行政機関への届け代行や金融機関の通帳管理等が含まれます。判断能力が乏しくなると家庭裁判所に申し出て「任意後見制度」に移行します。報酬は委任内容によりお互いに決めます。月に数万円にはなるでしょう。

「成年後見契約」は、判断能力の乏しい方(認知症や精神疾患や知的障害者等)を対象にしたもので、後見類型(判断能力がほぼない方)では、本人に代わる代理権を持ち、財産管理や身上監護を行います。後見人の担い手は弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職が約8割を占めており親族後見人は約2割となっています。これは、親族間の問題や不正があるからです。なお、専門職後見人への報酬額は家庭裁判所が決定しますが、数万円/月以上となります。また、成年後見を家庭裁判所に申し立てるには、診断書や戸籍調査等の書類が必要となり、申し立てること自体の手続き作業に数か月は掛かります。

「死後事務委任契約」は、生前に信頼できる人に自分の死後の手続きを行ってもらう委任契約です。依頼内容は、死後の親族知人等への連絡、債務の支払、葬儀と納骨、行政への届けなどです。なお、報酬額は委任契約時に委任内容により決めておきます。

「遺言書」は生前に自分の意思で、どの財産等を誰に渡すといった財産目録を作成しておくことです。財産目録には、自宅や土地といった不動産等、また預貯金や生命保険、投資内容といった金融資産等を記述し、併せて分配額も記しておき、相続します。また、遺言書の中に、遺言執行者を明記する(事前に依頼)ことで相続の手続きを速やかにすることができます。そして、付言事項も大切な項目です。どのような想いで相続するか本人の考え方を記載するものです。なお、遺言書がない場合、相続財産は法定相続または、相続人同士が合意する「遺産分割協議書」扱いとなります。

遺言書の作成は、公正証書として公証役場で行うことが望ましいでしょう。(下記参照) なお、公証役場への支払手数料は申告相続財産額により決まります(公証人HP)。また、遺言執行者への報酬は遺言書の中に記載しておきます。手続き内容等によりますが、数十万円以上となります。

相続する身内がいないおひとり様の場合は、寄附するという方法(遺贈)もあります。遺言書がないと相続財産は国庫に収納手続きとなります。また、遺言書を含めて、ここで紹介しました契約文書は「公正証書」とすることで実効性のある書類となります。

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