奥入瀬自然誌博物館紀行

2020/10/18

奥入瀬自然誌博物館紀行

社会福祉士 北村弘之

十和田市内から車で約40分。初秋の奥入瀬渓流の入口に立ちました。 案内はNPO法人奥入瀬自然観光資源研究会(おいけん)」の事務局長の川村祐一さんです。彼は学生時代に同じクラブで活動していた後輩です。2年前に再会した際に誘いを受け今回足を運んだ次第です。

奥入瀬渓谷は十和田湖に向かい約14kmあり、国立公園の中でも特別保護区にあり、倒れた木々はそのままの自然の状態になっており、時には倒木などで道路が通行止めになることもしばしばあるようです。私が訪れた10月初めは紅葉の前だったので歩く人はまばらだったのですが、高低差200mと歩きやすいこともあり遠方からの一人歩きの人もいました。

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この奥入瀬渓谷は、今から15,000年前に十和田湖が決壊してできたもので、決壊当時の流れの勢いで渓谷ができたもので、その下流にある十和田市内はいわば「扇状地」の上に形成されているというのです。あらためて自然の驚異を実感したわけです。

タイトルにあるように、奥入瀬は特別保護区のまさに「自然誌博物館」にふさわしい中にあり、樹木、野草、コケ、シダ、地衣類、菌類、野鳥、動物、昆虫といった様々な生態系が季節ごとに変化して見られます。今回は特にコケとシダ、そして地衣類の観察紀行です。これは案内してくれた川村さんが、奥入瀬渓谷は写真で見る川の流れや樹木もよいが、立ち止まってみる自然もよいと話してくれ、我々は借りたルーペを首から下げ渓流沿いを自然観察しながら歩きました。

コケとシダの違いは何でしょうか? と聞かれて・・・・。

コケは根っこから水養分を吸わないで、コケ全体で水養分を吸い光合成をおこなっているとのこと。また、シダは根っこから水養分を吸っているとのこと。このようにふだんの見方とは違ったことを教えてもらい多少得意になった気分がしました。

また、シダのひとつ「リョウメンシダ」の葉の説明を受けました。このシダの特徴は表も裏の様子は同じように見えること、そして小さな葉が葉全体の相似形になっていることです。説明を聞きながら見ると大変楽しい気分です。ただ歩いているときれいなシダが群生していると思って通り過ぎる場面ではないでしょうか。

さて、今回の観察記の中でも注目したいのは「コケ」です。写真にあるように、コケをルーペ越しに見ると大変細かい葉の文様が見えてくるのです。最近は「コケ女」と言って、若い女性がルーペを通して岩肌のコケを観察する姿が見られるとのことです。何とコケの種類だけで奥入瀬には約100種類あるというのです。写真のコケは蛇の柄のようなので「ジャ(蛇)コケ」と呼ばれているようです。我々も、写真にあるように、奥入瀬渓流を背中にして、岩肌にあるコケを観察していましたので、他の観光客は我々をどう見ているのかと思うと愉快になります。このように、渓谷沿いをルーペ片手に「コケ」観察を楽しんできました。

 

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 さらに面白いのは、「地衣類」です。「ちいるい」と読みます。写真にあるように、まさに「象形文字」のようなコケが岩肌に張り付いています。説明によると、主役は「菌類」で、コケといった「藻類」と共生しているとのことです。自然が作り出す生物なのです。長年の地球環境に育まれてきた証なのでしょう。

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今回の旅では、車と遊歩道を併用した歩きでした。奥入瀬の入口から中流域までは渓谷に小さな支流が流れ込み、川幅が広い部分もあり、雨が降って水が濁って入ました。中流域からは滝の出現が目を楽しませてくれます。堰堤が見事な大きい銚子大滝から、穏やかな姉妹の滝など20近くの滝があり、写真で見るような清流そのものでした。川面は十和田湖で制限されているため溢れることはなく、無理なく歩ける遊歩道でした。7年後には上高地と同様、バスでの観光や乗用車の出入りが制限されるとあって、一層自然の中の博物館を楽しめそうです。

なお、タイトルの「奥入瀬自然誌博物館」はNPO法人奥入瀬自然観光資源研究会発行の書物名を借用させていただきました。

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以上

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