「不安な個人、立ちすくむ国家」 –レポートを読んで–

経済産業省の若手官僚がネットで公開したレポートが、この標題にあります、「不安な個人、立ちすくむ国家」というものです。(2017年5月公開。ネットでダウロードができます)。その後、同タイトルの本が11月に発行されました。今回は、このレポートを読んでの感想等を記述しております。

【概 要】 副題は、「モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか」です。メンバーは経済産業省の20代、30代の若手で本プロジェクトに参画し、国内外の社会構造の変化を把握し、中長期的な政策の軸となる考え方を検討報告したものです。 国家官僚とあって、レポートの行間から、今後の社会は1960年代の高度経済成長時に作られてきた社会基盤の延長上でよいのかを問いかけ、今後の検討課題を掲げています。 時代の変化の要素として、日本社会における「個人の価値観の変化・多様化」、「少子高齢化と人口構成の変化」、「格差の拡大・固定化」そして「情報化社会」を挙げています。他にも国際社会における政治や経済、技術、宗教等にもスコープしています。

【不安な個人の課題】 レポートの最初にあります、「液状化する社会と不安な個人」で掲げられた5つのテーマは下記の通りです。ここでは、特に私が最近考えていることの①を中心に記述いたします。① 居場所のない定年後 ② 望んだものと違う人生の終末 ③ 母子家庭の貧困 ④ 非正規雇用・教育格差と貧困の連鎖 ⑤ 活躍の場がない若者 【いつまで働きたいですか ?】 平成28年度の高齢者白書では、「いつまで働きたいですか ?」という問いかけに、「働けるうちはいつまでも」が28.9%あり、80歳迄働きたいを入れると72%の人が働くことを希望されています。もちろん、現役と同じようにフルタイムではないと思いますが、同アンケートの働く理由の一つに「生きがい・社会参加のため」の人は40%いるのです。多分、働くことで収入を得たい人もいるでしょう。しかし自分の時間を活かした働き方もあるはずです。例えば、朝・夕の通勤ラッシュでなく日中の勤務のみ、また若い頃やってみたかったことを実践するため週に2日は自分の時間、3日は勤務というふうにすることもあるでしょう。また、ボランティア活動があったりと選択肢はいろいろとあるのでしょう。 私の経験から言えば、とりわけ男性サラリーマンの定年後の60歳以降はつらいものがあるでしょう。今年の先輩からの年賀状に「高齢者は暇との戦いですね」と書いてきた人がいました。 さて、ここで提案です。人生100年時代。60歳定年後の男性の平均余命は84歳です。第二の豊かな人生を送るための方策として、「第二の人生の過ごし方」を現役時代から社員に知らしめることは、企業法人の役割の一つではないでしょうか?  定年後の収入額、支出額の概算を知ることはもちろん、60歳以降の自分にどのような生き方があるのか迷っている人、また考えたことのない人にアドバイスできる機会を持つことは、今後の社会的な責任であるように思われます。東京大学の秋山教授は、「高齢化社会に合った産業の育成」を図り、60~70歳代に働ける環境づくりを提案しています。 また、私は多様化する社会の中、人のつながりを拡大するため、社内制度として「副業」を認めることも必要かと考えます。同じ企業・法人文化の付き合いだけでなく、多様な人々とのつきあいが、シニア時代の生活、更には心を豊かにするように思えます。

【孤独の不安】 ある調査によると、定年後の不安要素に「社会とのつながりが減ってしまう」と「配偶者との死別が不安」が挙げられていました。これらは、将来の孤独の不安がよく表れています。 社会全体におひとり様が増えていること、また個人の多様な生き方も影響していると思われます。これらは、完全に解決する術はないでしょうが、「人と人とのつながり」を維持し、保つことで多少でも安心した”気持ち”を持つことができるのではないでしょうか。  年老いていくことは、4つの喪失があると言われています。ひとつは「身体・精神のバランスの衰え」「年金生活になることによる経済的不安」、「セカンドライフの目的が見えないこと」そして「子どもの独立と定年後による家族と社会のつながりがなくなること」が挙げられています。 これらは、困難であっても、他人や友人、そして家族の力を借りて自分で道を切り開くことで、少しでも不安を無くすことができればと考えています。

【支え、支えられる人間】 私は、この7年間独り身の人の後見人をしております。その中の、約50年間病院で精神疾患だった女性、そして10数年間独居生活だった男性を施設等に入居していただきました。その後の変化に目を見張るものがあります。施設職員の力はもちろんですが、一緒に住むことになった人の「見えない人間パワー」が大きな原動力となって、張り合いのある顔立ちになっているのです。会話は出来なくても、食事のにおいや共同生活での触れ合い、生活の風が大きく影響していると思われます。 人は、「やってみよう」と思っても、ひとりの力では弱く、背中を押してあげる仲間や集団の力が必要です。そして、励ましの声かけでなくとも、「何でも声かけ」が必要と感ずる今日この頃です。 所詮、人間は文字通り、支えられ、支えていくものなのです。

【福祉とは・・・】  福祉とは、弱い人を助けるばかりでなく、社会全体を幸福感に満たすものなのです。経済優先でなく、まずは人間優先なのです。 少子高齢化社会になった今、これまでと異なり、高齢者が子供や若者を支えていくことも「あり」という社会形成もひとつです。 以上

「不安な個人、立ちすくむ国家」を読んで02042018  ⇒PDF